未来の仕事と子育て by しぃたけ

しぃたけ🍄が、未来の仕事と子育てを考えます!

お婆ちゃんは眠りながら・・【短編小説】


ある日、私とお母さんとお婆ちゃんでスーパー銭湯に行きました。全員で女湯を楽しんだ後、ちょっと冷たいものでも食べようかとお座敷のあるスペースに場所を確保。お婆ちゃんには留守番してもらい、私はかき氷を受け取り、お母さんは水をとってくる段取りで別れました。

かき氷のお盆を持って自分たちの場所に戻ると、お母さんが困ったような顔で私の方を見てきました。

「お婆ちゃん、寝てしまったみたい。」

「ほんとだ、お風呂で疲れちゃったのかなぁ。」

お婆ちゃんは正座しながら、こっくりこっくりと、船を漕いでいました。

お母さんと私が自分用のかき氷を食べ終えても、お婆ちゃんはまだ眠っていました。お婆ちゃんは私の宇治金時を少し食べれたらそれでいいと言っていたんだけれど、もはやそれは残っていません。

「お婆ちゃん起きないね。」

「そうだね。」

何回かそんなやりとりをお母さんとしながら、私はスマホを、お母さんはそこで流れていたテレビ番組をなんとなく観ていました。でも、お婆ちゃんが寝始めてから一時間ほど、つまりその座敷に腰を落ち着けてから一時間ほどたってくると、私もお母さんもだんだんと不安になってきます。

「おかあさーん、そろそろ起きますよー!」

私のお母さんが声をかけても気持ちよさそうに寝続けています。

「仕方ないから、私がお婆ちゃんをおんぶして車に乗せようか?」

と提案して、自動車に乗り込み、20分ほどドライブして家に着きました。

・・・・・

ちょうど家に着く少し前、お婆ちゃんは目を覚ましました。それも、変な寝言とともに。

「ではまた、貴方も身体にお気をつけてね・・。あら、わたし・・・。」

「いや、お婆ちゃんのほうが大丈夫?一時間以上正座しながら寝ていたんだけど。」

「やだ、ごめんなさい。」

とりあえず家に着いたので、三人とも車から降りて家に入りました。家で落ち着く場所は、私はいつものソファ、お婆ちゃんはフローリングの上のマットの上に正座。

「お婆ちゃん、寝言で『貴方も身体にお気をつけてね』なんて言ってたよ。」

お婆ちゃんは少し驚いた顔をした後、沈黙。おや、何か怪しいぞと私は直感的に思いました。

お爺ちゃんが亡くなってからは10年以上は経つ。もしかしたら、お婆ちゃんの新しい彼氏かな?と期待をしながら、探りを入れてみました。

「お婆ちゃん、誰かお友達と会った時のことでも思い出したの?」

「ううん、そういうのじゃないの。」

お婆ちゃんは嘘をつくのが下手だ(笑)。

話題から逃れようとするお婆ちゃんに対して、しばらくあの手この手で質問を重ねました。こういう腹の探り合い、今の若者は得意なんだよ、お婆ちゃん。そんな心持ちで話を続け、とうとうお婆ちゃんの隠された秘密を聞き出すことができました。ただ、それは私が予想もしていなかった内容でした。

「そうなの、レンタルお婆ちゃんをやってるのよ。」

話を聞いていた私とお母さんは目を見合わせて、その不思議な時間を一瞬、共有しました。

・・・・・

レンタルお婆ちゃん。

このデジタルの時代、多くの情報はネットで調べればすぐに調べられます。ただ、ネット時代より前の情報は、なかなかネット上に落ちてなかったりします。それをお婆ちゃんに直接聞くことができるサービスが「レンタルお婆ちゃん」というサービスなんだって。なぜ、レンタルお爺ちゃんがないのかって?はじめはレンタルお爺ちゃんもやっていたそうなのだけど、説教を垂れたり仕事をしていた時代の自慢話が多かったりした結果、利用者が少なくなりやめてしまったみたい。

レンタルお婆ちゃんの凄いところは、お婆ちゃんの頭皮にちょっとした機械を埋め込んで、直接やりとりができるというところ(らしい)。確かに、お婆ちゃんにはスマホも難しそうなので、機械の操作がないのはいいかもしれない。

サービスを提供している会社からお婆ちゃんの頭に直接連絡が来て、お婆ちゃんと会いたい若者と実際に会わせたり、または、若者とお婆ちゃんを通話させたりするみたい。通話中は、実際の身体は眠ったような状態になるみたいで、さっきのスーパー銭湯のようなことが起きるみたい。

お婆ちゃんにとっても、若い人とお話ができるのは新鮮なんだろうね。

「ごめんなさいね、ちょっとだけお話ししたいっていうものだから断れなくて・・」

私のお婆ちゃんはいい人だ。でも、このサービスを悪用する人もいるだろうし、通話する場所を考えないと家族にも迷惑が掛かってしまうから気を付けてねとお婆ちゃんにはアドバイスしておきました。

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レンタルお婆ちゃんを利用することは家族公認となったので、お婆ちゃんは一週間のうちで曜日と時間を決めてこっくりこっくりしています。

でもね、お婆ちゃん。いまは匿名でいろんなことができる時代。さっき話をしていたのは実は私なんだよ。

面と向かって聞きづらい昔の話。高度成長期前の日本はすごく貧しかったけど、家族みんなで努力して生きてきたこと、お婆ちゃんがお爺ちゃんと出会った時のことなど。すごくワクワクできました。

いつかはさっきお婆ちゃんが話をしていた「タマ子」が私だってこと、お婆ちゃんに教えてあげよう。そして、今後はいつものリビングでお話ししよう。

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